夙川高校2期生の皆さん、ご卒業おめでとうございます。教職員一同、皆さんの晴れの日を心からお祝い申し上げます。保護者の皆様、ご子息・ご息女のご卒業、おめでとうございます。心よりお慶び申し上げます。またこれまで本校教育に対するご理解と、多大なるご支援・ご協力を賜りましたこと、心より感謝申し上げます。本当にありがとうございました。

 さて、皆さんが高校に在籍した3年間は、世界が激しく変化した時期でした。3年前に、感染症が世界中に拡大し、多くの人を恐怖に陥れ、日常生活や行動の自由さえも制限される事態をいったい誰が予想できたでしょうか。私たちは、この災禍から日々くり返される生活が、無条件で継続され私たちの手中にあるのではないことを学びました。同時に、日々くり返され単調と思える生活の中にこそ、貴重なもの、尊いものがあることに気づかされました。また、ソーシャルディスタンスで人と人の距離が求められる一方で、感染予防対策において社会全体が一体となり取り組む連帯感の重要性にも気づかされました。さらには、オンライン授業や感染者拡大に対する医療制度など、新しい技術やしくみの可能性を発見したのも事実です。しかし、一方で多くのものを失いました。それは人命であり、産業や社会構造であり、人々の生活でした。皆さんは、人生の中でたった3年しかない高校時代をこの災禍の中制約の多い生活をしいられ、友と過ごす楽しい時間や人との出会いなど何かしら失われたものがあったと思います。コロナ感染は波状に拡大と縮小を繰り返し、まだまだ終焉が見えてきません。あとどのくらい、この災禍の中で我慢しなければならないのか分かりません。

 しかし、どのような悲惨な災禍もやがては終わります。災禍の暗闇を抜ければ、私たちはそこから再出発しなければなりません。次の世代に、同じ災禍が起きないように予防に富んだ社会をつくり、失われたものを再現するのではなく、これを機により良いものに作りかえるのです。それは創造と発展が飛躍する時期です。夙川高校が在る神戸市兵庫区は阪神淡路大震災で甚大な被害を受けた地域です。震災直後は目をおおうばかりの惨状に絶望のどん底に突き落とされました。しかし、今日の神戸を見ると、美しく平和な暮らしを支える都市に生まれ変わっているではありませんか。ここに、人類の叡智と力強さを感じずにはおれません。時として、衰退や疲弊は存在します。将来への希望を失うことも在るでしょう。しかし、それらまもた一時的なものであり、やがて終わりがきます。

 本日、高校を卒業する皆さんは、今しばらくこの災禍の中で窮屈な生活が続くのかもしれません。しかし、トンネルを抜けた後、新しい世界の創造が始まります。その時、必要になるのが、社会の再生に参画する積極性と、自分は何が出来るのかという問いです。

 阪神淡路大震災の直後、この国で初めてボランティアが流行しました。悲惨な状況や困難に直面している被災者を見て、いても立ってもいられない。自分に何が出来るのかと自問した結果、ボランティアとして全国から被災地に集まり復興の一翼を担ったのです。私が思い出すのは、江戸末期に黒船来航の国難にあたり、国家を救うために自身の利益や地位を捨て奔走したあげく幕府に処罰された吉田松陰の言葉です。「かくすればかくなるものと知りながらやむにやまれぬ大和魂」というものです。また、1961年のジョン・F・ケネディー大統領の就任演説の「祖国があなたに何をしてくれるかを問うてはなりません。あなたが祖国のために何ができるかと問おうではありませんか」という言葉も同様です。コロナ感染が過ぎ去った後、若い皆さんが活躍する舞台を作りあげ、主人公となって振る舞ってください。

 皆さんは、この災禍の中で萎縮するのではなく、次に来る創造と発展の時期に備え準備に励むことを期待します。

 最後になりましたが、皆さんのことをいつも応援しています。活躍する場所はそれぞれ違いますが、自分の置かれた場所で幸せになる事を心よりお祈りしています。もし辛いことや悩むことが在れば、夙川高校に帰ってきてください。私たちは、いつでも皆さんを歓迎します。もし私たちが役に立つ事があれば、それは私たちの喜びです。それでは、元気に頑張って行ってらっしゃい。

2023年3月4日 高校校長 下地 英樹