入場してきた時の音楽、何か分かりますか?ビバルディの四季から、「冬」を演奏しています。講堂を出て行く時は「威風堂々」というエルガーの元気の出る、今からやるんだ、みたいな音楽を管弦合奏でしていただきますけれども、この何日かのうちにビバルディの「春」を演奏すると思います。ビバルディの曲というのは、春夏秋冬と1セットになっていて、いつも春からやるわけです。しかしよく考えれば、夏なのにビバルディの「春」をかけると、おかしくありませんか。秋なのに「春」からスタートしたらおかしくありませんか。僕はある日、それに気が付きました。夏は「夏」からかけて、秋は「秋」からかけて、冬は「冬」からかけます。そうするとビバルディがこの曲を作曲した時の気持ちがより伝わってくるなと思って、みんなにセレモニーの音楽の解説をさせていただきたいと思ったわけです。

 それで、私の今日のメインの話はまず質問から始めたいと思います。何かというと、人生に誕生日が4つあるという話があります。4つの誕生日って何かって皆さんちょっと考えてみていただけませんか。4つの誕生日。1つ目は生まれた時ですよね。だから2つ目、3つ目、4つ目は死んだ時かもしれない、これは試験の山かけみたいな感じですぐに思いつきますね。残りの真ん中の2つは何か。これがやっぱり肝なのですね。考えてみていただけませんか。

 ほとんどの人が、2つ目の誕生日は結婚した時って言うのです。3つ目の誕生日はほとんどの人が、子供が生まれた時っていうわけです。子供がたくさん生まれるとどうなるの?3が4になって5になって6になるのかって話です。2つ目の誕生日は、自分は何かということに気が付いた時、つまり自我に目覚めた時だと僕は思うのです。生まれてきて、勉強してきて、ある日突然気が付くわけです。俺って一体、何なのだと。

 3つ目の誕生日は何か。須磨学園は政治と宗教には距離を置いていますが、敢えて言うとすれば、神様に気が付いた時です。どういうことかというと、この世の中には自分がどうこうしても、どうもならないことがある。雪が降る、雨が降る、不幸が訪れる、ハッピーなことが起きる、戦争が起きる、大変なことが起きる。それを神様の思し召しと思えば、そういうふうに言えるのではないか。これは何かといったら、物理学と化学と生物学と地学と天文学とニュートンの力学と人間性のルールと、あらゆる自然界の法則を合計したものが、ひょっとしたら神様ではないかなと思ったりします。

 そういう自分がどうしようもできないものが世の中にあって、それで自分の人生の多くの大きな部分が決まってしまって、仕方ないとか、しょうがない、諦めるしかないって、投げやりな気持ちになってくれと言っているわけではないですが、そういうことに気が付いた時、それが3回目の誕生日で、3回目の誕生日がある人にだけ、4回目の誕生日、死ぬ時は単なる死ではなくて、新しい誕生日じゃないかなと思ったりするのです。

 なぜこの話を中学校の卒業式にするのか。みんなの中で、高校時代に「自分は何なんだろうか」と思う日が、私は来ると思うのです。そういう日が来る。須磨学園夙川高等学校に在学している間に、自分とは何なのかという思う日が来る。その日のために色々準備して考えていてほしい。「もう自分はそう思った。」「十分、私は大人です。」という人もいるかもしれません。私は高校時代に、悩み多き高校時代にどこの大学に行くのか、将来の仕事をどう形にするのかを含めて考えた時、「自分」に目覚めたという経験があります。ということで中学校を卒業して、夙川高等学校に入って、自分が何なのかという、一番大きな答えに、一人一人が一人一人の答えを持って、解決してくれると嬉しいなと思っています。

 二十数年間、須磨学園をやってきて、最近の一番大きな私の喜びは、夙川中学校と高校がどんどん頑張って伸びていってくれていることです。それらを僕にくれているのは君らです。ということで、あと3年、頑張らなくていいから、あと3年楽しくいてください。頑張ろうっていうのは2日しか続きませんよ。楽しく行こうよ。頑張らなくていいから。理事長が言った、失敗は反省しなきゃダメだって。反省って一体どういうことでしょうか。学ぶってことですよね。反省する為の第一条件とは何か。失敗を失敗と思ってはいけない。失敗と言わずに、実験と言うのですね。うまくいかなかった実験というのです。実験と思ったら、萎縮しなくなる。失敗と思うから萎縮するのです。萎縮したら見たくないと。見たくなかったら学びはないわけです。実験したら、実験のレポートを書くわけですよ。どうして実験がうまくいったか、どうして実験がうまくいかなかったのかを書くわけです。だから、失敗を実験というふうに、失敗と思わないで、うまくいかなかったことを実験と思うと、そこから素直な学びというのが始まるのです。だから皆さん、頑張らないで、失敗と言わないで、偉大なるうまくいかなかった実験と、けけけっという感じで、高校はいってほしいです。

 人生は実験だ。以上です。

2024年3月15日 学校法人須磨学園 学園長 西 和彦